冬の金沢を代表する景色といえば、やはり兼六園の「雪吊り(ゆきづり)」です。
雪の重みに耐えながらも、美しく張られた縄が描く幾何学模様は、まさに冬ならではの芸術。
初めて見る方にとっては「どんな意味があるの?」「いつ行けば見られるの?」といった疑問も多いのではないでしょうか。
この記事では、雪吊りの見頃の時期やその仕組み、種類の違いや伝統的な技法まで分かりやすくご紹介します。
冬の兼六園をもっと深く楽しむための知識として、ぜひご活用ください。
兼六園の雪吊りとは?冬の風物詩を解説

雪吊りとは、雪の重みから木の枝を守るために縄や柱で枝を吊り上げる作業のことです。
特に積雪量の多い北陸地方では、庭木を守るために冬の恒例行事として行われています。
兼六園では、この雪吊りが冬の風物詩として広く知られており、毎年多くの観光客がその美しさを楽しみに訪れます。
なかでも有名なのが、園内のシンボル的存在である唐崎松(からさきのまつ)です。
毎年11月1日から、熟練の庭師たちによってこの唐崎松への雪吊り作業が始まります。
9メートルの芯柱に約800本もの縄が放射状に張られる様子は圧巻で、見応えがあります。
このように、雪吊りは単なる装飾ではなく、重たい雪から木々を守るための“実用的な伝統技術”。
金沢市内では、兼六園に限らず、個人宅や会社の庭でも行われており、地域に根付いた習慣として受け継がれています。
兼六園の雪吊りは「兼六園方式」と呼ばれ、全国の庭師が学びに訪れるほど洗練された技術でもあります。
庭木の種類や形に合わせて、見た目の美しさと機能性を兼ね備えた吊り方が施されるのが特徴です。
雪吊りの仕組みと種類【庭師の伝統技法】

雪吊りは一見すると装飾的な縄のデザインに見えますが、実際は雪から枝を守るための繊細かつ実用的な技術です。
木の形や大きさに応じていくつかの仕組みがあり、職人たちの高度な判断によって使い分けられています。
雪吊りの基本構造
基本的には、木の幹や根元に「芯柱(しんばしら)」と呼ばれる竹や木の支柱を立て、そこから放射状に縄を張って枝を吊る構造になっています。
これによって、重たい雪が積もっても枝が折れにくくなるのです。
主な雪吊りの手法
雪吊りには代表的な3つの手法があります。
- りんご吊り
中心の柱から放射状に縄を張り、各枝を吊り上げる方式。
見た目にも美しく、兼六園の唐崎松や巣籠松などで用いられています。
もともとは明治期に西洋りんごの枝を守るために使われた技術で、この名が付きました。 - みき吊り
背の高い樹木に用いられる方法で、幹の高い位置から直接縄を張って枝を支えるタイプです。
根上松や播州松などがこの方式で保護されています。 - しぼり
低木や樹形が複雑な木に対して、枝をまとめて縄でくくり上げる技術です。
ツツジなどの小さな木々に多用され、形状や用途によって「中しぼり」「三又しぼり」「大しぼり」など細かく分類されます。
雪吊りの様式の違い
地域や流派によっても仕上げ方に違いがあります。代表的な様式は以下の通りです。
- 兼六園式
帆柱(芯柱)の先端に荒縄を巻き、飾り結びを施すのが特徴。
各枝へ直接縄を張るスタイルで、見た目の繊細さと機能性の両立を実現しています。 - 北部式
頭飾りに藁やコモを使い、周囲に放射状の竹骨を組むスタイル。
より装飾性が高く、東北地方などで多く見られる形式です。 - 南部式
北部式とよく似ていますが、縄のバレン(上部の飾り部分)が特徴で、縄を飾る工夫が施されています。
このように、雪吊りには単一の型だけでなく、木の個性や地域の伝統に合わせた多彩なバリエーションが存在しています。
兼六園の庭師たちはこれらの技術を柔軟に組み合わせながら、冬の庭園を守りつつ美しさを演出しているのです。
雪吊りの作業風景も見どころ!

兼六園の雪吊りは、完成した風景だけでなく、設置作業そのものも見どころのひとつです。
例年11月1日にスタートし、熟練の庭師たちが手作業で一本一本縄を張っていく様子は、まさに冬支度の風物詩。
金沢ならではの伝統文化を“体験するように”味わえる貴重な機会です。
唐崎松の作業は毎年11月1日から
最初に作業が始まるのは、兼六園のシンボルツリー「唐崎松(からさきのまつ)」。
この木には5本の芯柱が立てられ、そこから約800本もの縄が放射状に張られます。見た目にも壮観で、設置が進むにつれて形が美しく整っていく様子は、見学していて飽きることがありません。
庭師たちの連携が見どころ
作業はすべて手作業で行われ、ベテランと若手の庭師が連携して進めていきます。
芯柱を立て、等間隔で縄を張り、枝ごとに丁寧に結びつけていく――その正確さとスピードは、まさに職人芸。
雪吊りがただの装飾ではなく、技術の結晶であることを実感できる瞬間です。
写真撮影にもおすすめのタイミング
この作業期間中は、観光客も比較的少なめで、職人と雪吊りを同時に写真に収められるベストシーズンともいえます。
作業風景を間近で見られることから、造園関係の仕事をしている人やデザイン関係の人が視察目的で訪れることも。
「ただ眺める」だけでなく、“作られていく過程”を感じられるのは、11月だけの特権です。
雪吊りと一緒に楽しみたい兼六園の冬の魅力
兼六園の雪吊りを目当てに訪れるなら、園内の他の冬の見どころもあわせて楽しむのがおすすめです。
雪景色に包まれた庭園は、まるで静寂の中に溶け込むような美しさ。凛とした空気の中でしか味わえない魅力が詰まっています。
積雪時こそ見たい名スポット「霞ヶ池」
園内中央にある霞ヶ池(かすみがいけ)は、雪吊りと並ぶ冬の絶景スポット。
池の水面に映る雪吊りや、うっすらと雪をまとった石橋・灯籠の風景は、まるで一幅の絵画のようです。
早朝など、光が柔らかい時間帯に訪れると、写真映えもバツグン。カメラ片手にじっくり回るのもおすすめです。
冬季限定イベントやライトアップに注目
過去には「兼六園ライトアップ 冬の段」として、12月下旬〜2月に夜間の無料開園&ライトアップが実施された年もあります。
2025年の開催は未定ですが、雪吊りがライトに照らされる幻想的な景色は冬ならではの醍醐味。
お出かけ前に公式サイトや金沢市観光協会の情報をチェックしてみてください。
服装と足元は「完全冬仕様」で!
兼六園は一部坂道や石畳が多いため、滑りにくい靴や防寒対策が必須です。
気温は0度前後まで下がる日もあるので、手袋・マフラー・ホッカイロなどを持参すると快適に過ごせます。
また、降雪後や解けかけの時期は足元がぬかるむこともあるので、撥水性のある靴がおすすめです。
冬の静けさを感じるなら朝がおすすめ
日中は観光客で混雑することもある兼六園ですが、朝の時間帯は比較的静かで、雪景色の中で落ち着いた雰囲気を楽しめます。
朝8時前後に訪れると、雪吊りが朝日に照らされる幻想的な瞬間にも出会えるかもしれません。
まとめ:兼六園の雪吊りは冬の金沢観光に欠かせない
兼六園の雪吊りは、自然と人の知恵が織りなす冬の芸術です。
単なる飾りではなく、雪の重みから樹木を守るための機能性を持ちつつ、その姿はまるで冬の空に広がる和のオブジェのよう。
見頃を迎える12月中旬から2月にかけては、金沢ならではの情景が園内に広がります。
さらに、設置作業の様子を間近で見られる11月や、ライトアップが実施される夜の時間帯も、異なる魅力に満ちています。
庭師たちの技術に支えられた雪吊りは、まさに“見て学び、感じる”冬の体験。
冬の金沢に訪れる機会があれば、ぜひ兼六園を歩いてみてください。
雪吊りの繊細な美しさと、冬ならではの静けさが、心に残る旅の思い出になるはずです。